3Dプリンターの可能性

企画営業部 第1部 課長 丸山

人の手では絶対に出せなかった
表現が、可能となりました。

原型OEM事業としていち早くフィギュアのデジタル化に舵を切ったトップス。
他社に先駆けた3Dプリンター導入の立役者本人が、当時の経緯やデジタルならではのメリットや苦労話を交え、3Dプリンターの未来と可能性について語ります。

とにかく「時間短縮」するために

最初に3Dプリンターを導入したのはいつ頃ですか?

6年以上前になりますね。その頃はまだ、この業界でデジタル化というものが進んでいなかったんです。
フィギュアの原型を作るには、職人さんが粘土でこねて色を塗って複製して…という過程が一般的だったんですが、その中の「粘土をこねる」作業を3Dプリンターでデジタル化するために動いたのが、ちょうどその頃ですね。

導入を決めた経緯を教えてください。

3Dプリンター導入の一番の目的は「時間短縮」なんです。
それまでは職人さんが1個1個削って作っていたものが、データさえあれば3Dプリンターで作ることができるんです。ちょうどその当時、クライアントから時間短縮の要望もありまして。
極端な例でいうと、今まで3ヶ月をかけて作っていたものを「1ヶ月で作ってほしい」なんてことを言われたりもしましたね(笑)

さすがにそうなってくると、人の手ですべて作るのは難しいんじゃないかということで。 クライアントの要望に対応していくためにも「デジタル化にシフトしていこう」という流れになって、3Dプリンター導入に至りました。

それまで業界内で3Dプリンターは導入されていなかった?

「業界内で」というよりも、原型OEM事業をしている会社で3Dプリンターを導入しているところは当時ほとんどなかったと思います。
他社に先駆けての導入によって競争力をつけることができたという点が、実はかなり大きなメリットでしたね。

「人の手で作ることができないもの」を表現する。

手原型と比較した3Dプリンターのメリットは?

「人の手で作ることができないもの」を表現できるのが最大のメリットです。

たとえば、肉眼では見えないような小さな細工や模様も作ることができるんです。また、メッシュとかジッパーとか…そういう細かいデティール表現も、それまで職人さんが手作業で1つ1つ時間をかけて作っていたものが、3Dプリンターだと簡単にできてしまいます。
簡単にできるからこそ、時間短縮にも繋がるんですよね。
僕らの業界ではフィギュア1体作るのに大体3ヶ月くらいかかるんですが、3Dプリンターを活用することで2ヶ月くらいで作れるようになりました

手原型とデジタルだと原型師さんの作業工程も違いますか?

はい、違いますね。原型師さんにとっての一番のメリットは「修正のしやすさ」だと思います。
もしも、作ったものに対してクライアントから「左右対称にしてください」とか「大きさを変えてください」など修正が入ったとしても、デジタルだとすごく楽なんです。データを変えてもう一度出力すればいいだけですから。

これを人の手ですべてやるとなると、どうしても歪みが出てしまったり、最悪ゼロから作り直しってこともあるんですよ。修正対応が非常に早いというのも、デジタル化の強みですね。

実は3Dプリンターを導入した当時、デジタルの原型師さんがそれほど多くなかったんです。そこから徐々に手原型の原型師さんがデジタルに移行し始めるようになったんです。
もともとアナログで作っていた原型師さんだと、最初のうちはやっぱり「手で作った方がいいよ」と言う方も少なくなかったんですが、実際にデジタル化に慣れてしまえば、みなさん口を揃えて「手原型にはもう戻れない」と言うほどです(笑)

それでも納期は待ってくれない

仕事をする上で大変なことは?

生活リズムが機械中心になることですね。
3Dプリンターを使う上では、まずデータを機械に入れてスイッチを押すんです。その作業自体はすごくシンプルなんですが、実際に出来上がるのが夜中だったり早朝だったりすることもあるんですね。
出来上がったらすぐに次のものをセットしないと納期に間に合わない場合もあるので、出来上がる時間や次のセットも常に考えて夜中でも早朝でも関係なく動かないといけないんですよ。

もっと大変なのは、機械がエラーを起こしてしまった時です。
予定通りならとっくに出来上がっているはずなのに、途中で機械が止まっていた…なんてこともあるんですね。それでも納期は待ってくれないので、機械のサポートと何度もやりとりしたり、それでもダメなら他に3Dプリンターを持っているところに協力してもらったりして、必死に駆け回ります。

仕事をしていて喜びを感じる瞬間は?

僕の主な仕事はクライアントと原型師さんを結びつけることなんです。
なので、僕の手配した原型師さんが褒められることがすごく嬉しいんですよね。 機械に関するものだと、「人の手でできないものを3Dスキャナーと3Dプリンターで表現する」という試みがありまして。
その時に自分がクライアントに提案した企画が商品化されたんですよ。機械そのもののポテンシャルを生かしたものが商品になった瞬間は達成感がありました。

仕事をする上で心がけていることはありますか?

もともと3Dプリンターは、主に医療や機械設計の業界で「試作品」のために作られた機械なんです。
でも、フィギュアの世界で3Dプリンターを使う目的は「試作品」のためではありません。あくまでも製品、商品を作るということなんですよね。なので、出力したものを金型用に綺麗に仕上げる必要があります。
3Dプリンターを導入することで大幅な時間短縮ができる分、仕上がりも満足いくものにしないといけないと思っています。

いずれは一家に1台の時代がやってくる?

今後の課題点について教えてください。

最近はデジタルに対応している原型師さんも増えてきて、20代の若い世代になるとほぼデジタルです。
ただ、そもそものスタートがデジタルだと、出力したものを綺麗に仕上げる作業がなかなか難しいんですよね。
僕らの仕事はあくまでも金型用の原型を作ること。3Dプリンターで出力したものを綺麗に仕上げて納品することなんです。
なので、デジタルに対応している原型師さんも「デジタルデータを作ること」と「出力したものを綺麗に仕上げること」どちらの技術もあるのが理想ですね。
若い世代のデジタル原型師さんにも、そういうことを積極的に教えていかないとな、と思っています。

3Dプリンターを使って挑戦したいことは?

3Dプリンターを使う上では、出力したものがそのまま商品にならないと意味がないんですよね。
ただ、現状として僕らの業界での方法は出力したものを「磨く」という作業が入ってくるんです。この作業を省けるもの…つまり、磨かなくていいものがそのまま商品になるものを作ってみたいですね。
今後は、金型ではできない3Dプリンターならではの企画商品にも挑戦したいと思っています。

3Dプリンターの未来をどう思いますか?

いずれは1人1台…とまではいかなくても、興味がある人にとっては1家に1台置いておきたいと思うような時代がくるんじゃないかと。せめて電動ミシンくらいの普及率にはなると予想しています。
これから3Dプリンターの値段もどんどん安くなっていくと思うんですね。

「データを入手して自宅の3Dプリンターで出力する」という時代がすぐそこまで近づいていると思うんですよ。
今はまだデータを販売することへのハードルが高いですが、プロテクトをしっかりかけられるようになれば、将来的には通信販売からデータ販売にシフトしていく可能性も十分ありえるでしょうね。

3Dプリンターは医療や機械設計の世界だけでなく、使い方次第でどんな分野にも生かせると思います。
これからはもっとファッションやアートにも3Dプリンターが活用されていくはずなので、ホビーの世界でもどんどん導入していきたいです。
先手先手で新しい技術を生かしていくためにも、時代の変化には敏感でいたいですね。トップスが他社に先駆けて3Dプリンターを導入したように、次の一手も準備しておかないといけないと常に思っています。

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